「ねぇ、夜中に猫の声を聞かなかった? 犬も遠くから吼えていたように思ったんだけど」

「ユキは寝ぼけてたんじゃないの。僕は昨日ぐっすりと眠れたよ。全然何も聞こえなかった。トイラ、お前は聞いたのか」

 キースがちらりとトイラを見る。

「いや、知らない」

「だけど、窓を開けて確かめたら、確かに何かがうじゃうじゃとうごめいていて」

「見間違いじゃないの?」

 キースに否定されると、そう思えてくるからユキも強く主張する気になれなかった。

 このネタも結局、都合が悪くなり、ユキはまた話を変えた。

「ところで、あなた達、カナダのどこから来たの?」

「大自然のロッキー山脈」

 キースが大雑把に答えた。

「まるで山の中から来たみたいに聞こえるじゃない」

「その通りさ」

 ユキの答えを否定せず、トイラがぶっきらぼうに答えてすくっと立ち上がり、食べた食器をシンクに持っていった。

 あっけに取られていると、急に電話が鳴り響いて、ユキはハッとした。

 すぐさま駆け寄りレシーバーを手にする。

 思ったとおり、父からの電話だった。

「パパ! 今どこなの。もう大変なことになってるんだから」

 父親からの声を聞いたとたん、感情が爆発し文句を言わないと気がすまなくなっている。

 それを傍で聞いていたトイラとキースは、お互いの顔を見合わせて何かを確かめ合っていた。

 強気で話していたユキのトーンが次第に低くなっていく。

 「うん、うん」と父からの言葉を受け入れ、最後は「わかったわ。じゃあできるだけ早く帰ってきてよ……」と納得して電話を切った。

 そして大きくため息を吐いてトイラとキースを見つめた。

「どうやら問題は解決したみたいだね」

 キースがにこやかに言った。

「解決も何も、全てはパパの我が侭じゃないの。自分の研究がしたくて、向こうの大学の条件としてあなたたち二人の日本留学を受け入れたなんて。あなたたちそこの大学のお偉いさんの親戚ってことで、ようするに交換条件だったのね。私に言わなかったのは反対されるのが怖かったからですって…… 何よ。強行突破みたいに卑怯な手を使ってさ、私に何もかも押し付けるなんて」

「何でそんなに怒る?」

 トイラが聞いた。