ユキの体は鉛のように重たく、激しく降る雨が何度も頭を打ちのめしては、大地に徐々に沈み込んでいくようだ。

 ずぶ濡れの顔は決して雨だけのせいではない。

 トイラが消えていった一点を見つめる目は雨よりも大きな水滴を流していた。

 仁は声をかけるのを躊躇う。

 ユキの悲しみは宇宙のように果てしなく大きく広がっている。

 何を言ったところで意味を成さない。

 それならばと、ジークから 貰った巾着袋をぎゅっと握り締める。

 目の前に引き寄せ、思いつめた顔で見つめた。

 ──この中に……

 震える手で巾着袋のヒモを緩める。

 しかしそれ以上雨で冷たくなった手はスムーズに動かなかった。

 またヒモをきゅっと締めて、巾着袋を制服のポケットに荒々しく突っ込んだ。

「ユキ、早く山を下りよう。このままじゃ風邪を引いてしまう」

 仁の言葉など聞いてもいない。

 足に根が生えたようにユキは動かず、戻ってくることのないトイラをもしかしてと、期待をしながらまだ待っている。

「ユキ、みんなもう森へ帰ったんだよ。帰るべきところへ帰ったんだよ。ユキも自分の場所に戻らなくっちゃ。自分が存在しうる場所に」

 仁はユキの腕を掴み、引っ張った。

 ユキは人形のように何も反応しない。

 心はトイラを求めどこか遠くを彷徨っていた。

 それでも仁はもう一度ユキの腕を掴み、ぐいっと無理やり引っ張った。

 ユキはよろけて倒れそうになると、仁はしっかりと受け止め、ユキの肩を強く抱きしめてやった。