「さて、私も行かねば」

 ジークが恥ずかしそうに二人に声をかける。

「ユキ、そして仁、今までのこと許して貰えるとは思っていない。だか私が犯してしまった数々の無礼は心から謝る。本当にすまなかった。そしてこれからは償いのためにも、私もまた、森と黒豹の森の守り主のために忠誠を誓うよ。仁、私を救ってくれてありがとう。この恩を一生忘れない」

 ジークは握手を求めると、仁は快く受け入れた。

 その握手は仁の体の中へ風を吹き込んだかのように、髪の毛がふわっと一度なびいた。

「お詫び、またはお礼といってはなんだが、これをやる」

 ジークは懐から小さな巾着袋のようなものを取り出して仁に渡した。

「これから私達のことを知った人間のすべての記憶を消すが、お前達の記憶だけは消さない。だが、もし消したいと思ったときは、自らするがいい。それはそのためのものだ。使い方は、仁、一度見てるからわかるだろう」

 仁はその袋を見て、あのときの銀の輝く砂が入ってるとすぐに理解した。

「ユキ、私は今まで逃げていた。その心の弱さが卑屈な自分にしていた。でも心を入れ替えて頑張ってみる。こんな私が言えた義理でもないが、君の涙を見ていたら、つい言いたくなった。だからユキも頑張れよ。私の様に逃げるんじゃないぞ」

 ジークもまたコウモリになって飛んで二人の前から姿を消した。

 ユキと仁はそのまま暫く森の中で棒のように立ちすくんでいた。

 空からはポツポツと雨が降り始め、そのあと激しく刺すように落ちてきた。

 雨なのにユキの体に刺さるように降り注ぎ、とても冷たく痛く感じられた。

 体の奥にまで滲み込んでいくようだった。