「ユキ、僕にもわかったよ。トイラが君を助けた方法が」

 キースがユキの肩に優しく触れた。

「太陽の玉が割れて、ジークが暗闇に引き込まれそうになったのをみて、気がついたんだろう。トイラは以前にも言っていた。森の守り主の力が体から出てきたとき、自分という存在がいなくなったって。森の守り主になるには、こうならないとなれなかったんだよ。そしてユキの知っているトイラはユキの中にいる」

 ユキは胸を押さえた。

 薄々感じていたことだった。
 トイラは自分の命の玉を吹き込んだことを。

「でも、私、トイラを側に感じないわ」

「ユキ、君は人間だ。僕達と違って同じような影響が出るとも限らない。多少の違いがあるのかもしれない。だけど、ユキのその命はトイラの命には変わりない。君はトイラとともに生きているよ」

「嫌、こんなの嫌。トイラが側にいないなんて、嫌!」

「ユキ、僕だってトイラを失って悲しいんだ。あいつ最後に僕のこといい友達だって言って、去っちまったなんて信じられない。森の守り主が側にいたところで、もうトイラじゃない。僕も苦しいよ」

「キース……」

「でも僕はやらなきゃいけないことが一杯だ。しっかりと命ある限り、黒豹の森の守り主に忠誠を誓って、任務を遂行する。だからユキもしっかりと生きろよ。ユキのことは忘れないよ。ほんとに楽しいひと時をありがとう」

 キースはユキの頬に軽くキスをした。

「キース、また会えるよね。これが最後じゃないよね」

 ユキは本当はわかっていた。

 これが最後のお別れだということぐらい。

 でも違うとキースの口から嘘でも聞きたかった。

 キースは何も言わず笑っていた。

 いつもの素敵な、あの女生徒達を魅了した、さわやかな笑顔だった。

 だか目は水面が溢れるくらい潤んでいた。

 泣き顔を見せまいと、楽しく笑う顔だけをユキに見せるために必死に微笑む。

 そして仁に向かって、挨拶するように一度手をあげ、狼の姿になって走って森の奥へと消えていった。

「キース、さようなら。ほんとうにありがとう」

 ユキは小さく呟いた。