ユキがトイラの腕の中で息絶えようとしている姿は、仁の心臓が破裂するくらいのショックをもたらした。

 怒りと悲しみと悔しさが混ざり合い、仁は取り憑かれたごとくパニック陥る。

「ユキ! そんな、ユキがユキが」

 仁は首を何度も横に振り、制御できない興奮が体をむやみに痙攣させた。

 キースは無理やり羽交い絞め、仁を押さえつける。

 誰もどうすることもできないんだと、仁を押さえる手に力が入った。

 仁はキースに抑えられて何も抵抗できなくなった。

 そのがっちりと押さえ込まれた力加減はキースの心の底の悲しみをしっかりと仁の体にも伝えていた。

 誰も がこの状況が辛くてたまらない。

 そう思うと仁はひたすら涙を流し、顔がぐしゃぐしゃに濡れて、その光景を見守ることしかできなかった。

「トイラ、目を覚ませ。このままじゃユキはほんとに死んでしまうぞ。早く命の玉を取るんだ」

 トイラはまだ動かない。

「トイラ! トイラ!」

 キースの叫びがやっとトイラの耳に届いたその時、トイラは震えながらユキの顔を見つめ、今一度、大蛇の森の守り主の言葉を思い出した。
 

『お前達がここへ来たのには訳がある。何もかも私にはお見通しだ。そしてこれから起こること全ては、お前達には必要な出来事の一つとなるだろう』

『お前には森の守り主に相応しい力が備わっている。だが今のその気持ちではまだなれぬ』

『いいか、良く聞け、これは私の命でもある』


 そしてトイラの緑の目は炎が揺らぐように力強い光を放した。