ジークは自分に一番近い場所にいる仁に、震える手を伸ばした。

 仁は目の前の信じられない光景に肝もすくみあがる程怯えていた。

 しかしジークの悲惨な表情を見るや否 や無我夢中で立ち上がった。

 そしてジークの体を掴み、力の限り引き寄せる。

 闇の渦の力は容赦なく仁の体も引きずり込んだ。

「仁、逃げるんだ」

 キースが叫んだ。

 仁は逃げることなど考えられなかった。

 この瞬間手を離せばジークは闇に吸い込まれてしまう。

 何か方法はないか、このままでは自分も危ない。

 太陽の玉が突然、視界に入ると同時に仁はひらめいた。

 咄嗟にジークの足元に転がっていた太陽の玉の片割れに蹴りを入れた。
 仁の判断は正しかった。

 割れた太陽の玉が片方引き離されることで闇の渦は瞬く間に消えた。

 闇の渦から解放されてもジークの恐怖心はまだ抜けない。

 体がゴムのように伸びきった感覚が拭えず、ペラペラの紙になったような気分でいた。

 だが腹の部分が熱く引き締められている。

 この感触はなんだろうとジークがそこを見ると、仁の両腕がベルトのようにしっかり食い込んでいた。

 ──この腕が俺を助けてくれた。

 大切なものに触れるかのようにジークは仁の腕に自分の手を重ねた。

 仁はジークに触れられてやっと我に返った。

 咄嗟に腕を引っ込める。

 ジークがゆっくりと振り向き、しかめた表情で仁に問い質す。

「お前、なぜ私を助けた」

 仁は、言葉に詰まるが、ありのままを言った。

「だ、だって、助けてってジークが僕に言ったから」

「私は、お前に酷いことをしたのを忘れたのか」

「忘れてるもんか!」

「じゃあ、なぜ、憎い私を助けた」

 それでも答えが知りたいのか、しつこくジークは訊く。

 どうしても仁が取った行動の真相が知りたい。

 それほど自分が助けられたことがありえないと信じられなかった。