「もういい。勝手にシャワーを使った俺にも非がある」

「あのさ、見ちゃって申し訳ないけど、どうしてあなたの体そんなに傷だらけなの」

「そんなこと……どうでもいいだろ」

 見るからに何かを抱え込んでいるのに、それをはぐらかそうとする。
 トイラは一体何を背負っているのだろう。

「だけど……」

 ユキは好奇心からそれを訊いてみたかった。

 でもトイラはその隙を与えずにその場を去っていく。
 呆然と暫く立っていたが、その入れ替わりにキースが入っきた。

「僕もシャワー浴びていい?」

「あっ、もちろん。ちょっと待って、先に顔を洗わせて……」

 言い終わる前に、キースはすでにシャツを脱いでしまっていた。

「キャー、キース、なんで脱ぐのよ」

「何恥ずかしがってんの? ユキも一緒に入るでしょ」

「バカ! そんな事あるわけないでしょ」

「へへへ、冗談だってば」

 キースは笑って去っていく。
 朝から体を見せてからかうのは止めてほしい。

 ユキは洗面所の蛇口を捻り、冷たい水で自棄になってばしゃばしゃと乱暴に顔を洗い出した。

 タオルで顔を拭きながら、見てしまったトイラの背中の深い傷を思い出す。
 トイラだけじゃなくキースの体も傷だらけだった。

 それだけじゃなく、ふたりして細身ではあるのにしっかりとした筋肉がついて逞しかった。

 そんな事まで観察していた自分が情けない。

 顔を上げたとき、鏡に映った自分の顔がまともにみられなかった。