良子の赤いスポーツセダンが警察署前に止まっていた。

 すべるように後部座席に乗り込む。

「良子さん、早く車を出して」

 仁はせかす。

「わかったわよ。さあ、これからトイラとキースを助けに、敵地に乗り込むわよ。みんな覚悟はいい?」

「トイラとキースはどこにいるのか、知ってるのか」

 柴山が聞いた。

「ええ、知ってるわ。動物実験センターよ。まあ誰もそんな風に公では呼ばないけどね。表向きは彼の家だから。あいつは噂では動物を何かの実験に使ってるらしいわ。動物を救うのが目的じゃなくて、自分の趣味だけのためにね。自分の地位を利用して、好きなことやってるって、もっぱら私達の間では有名な奴なの」

「詳しいんだね、良子さん」

 仁が言った。

「まあね、何度と奴には言い寄られて、迫られたからね」

「な、なんだって。それで良子はどうしたんだ」

 柴山は急にそわそわしだした。

「馬鹿ね、そんなの相手にするわけないでしょう」

 良子は呆れた口調で答えながら、ハンドルを切っていた。

 柴山は良子の横顔を切ない思いが入り乱れながらただじっと見つめていた。

 仁は、ジークが襲ってこないか、何度も車の後ろを確認する。

「ユキ、まだ胸が痛む?」

「ううん、もう治まった。なんとか離れたみたい」

 仁は、それを聞いて胸をなでおろした。

 だらけるように背中が背もたれに倒れたが、すぐに置かれている状況に気を取り直す。

 ──今、ユキを守れるのは僕しかいない。

 絶対守るからと、目に力を込めてユキに訴えていた。