そして警察のフロントでユキたちが待つこと30分。

 柴山が苦笑いしながら出てきた。

 良子は柴山に近づき、あらん限りの力で思いっきり頬を引っぱ叩いた。

「痛ー」

「あんた何をしたかわかってるの? ユキちゃんに謝りなさい」

 柴山は、ユキを見るなり突然土下座した。

 周りの注目を浴びても何を思われても気にせず、ユキがお代官であるかのごとく平謝りだった。

「柴山さん、もういいです。立って下さい。とにかく、トイラとキースを救うのを手伝って下さい」

 トイラとキースの奪回作戦が始まろうとしたこのとき、ユキの胸がまた痛み出した。

 息が荒くなるり、ユキは怯える目つきで周りを見渡す。

 居た──。

 ジークがにやりと笑みを浮かべてユキを見ている。

 ユキが胸を押さえて、前屈みなって前方を見ているのに気がついた仁。

 まさか──。

 仁の鼓動も速くなる。

 ジークは約束を破棄して、目の前でユキを狙っていた。

 仁はすぐさま判断する。

「良子さん、お願い、車をすぐに出して」

「どうしたの、突然慌てて」

「いいから、早く。ユキを連れて、車に乗って。僕も後からすぐに行く」

 仁はジークに近寄った。少しでもユキから遠ざける時間が必要だった。

「ジーク、よくも騙したな。最初から、僕との取引きなんてするつもりなかったんだね」

「騙される方が悪いんだよ。ほんと簡単にコロッと騙されるね。トイラもそうだったけど、恋は盲目、騙しやすくてほんと楽しいよ」

「卑怯者!」

「そういう自分もそうだろ。簡単に友達を裏切ったんだから。まあだけどお礼を言うよ」

 仁は悔しくて仕方がない。

 卑怯者──。

 ジークの言うとおり自分も同類だった。

 その悔しさと怒りをジークに体当たりしてぶつけてやった。

 ジークはよろける。

「何をする!」

 仁の首を掴み、ひねり潰そうとしたときだった。

「誰か助けて!」

 仁がかわいこぶって叫んだ。

 ここだと反応が早い。

 ジークはすぐに周りに取り押さえられた。

(バーカ、警察の中で暴力事件起こしたらすぐに取り押さえられるっていうんだ)
 その隙に仁は逃げた。