ユキは勢いつけて警察署に入っていった。

 その辺のおまわりさんを捉まえて、自分がこの日の事件の被害者だと我武者羅に伝えた。

 そしてトイラとキースに会わせるように要求する。

「ああ、あの豹と狼人間ですね。あれは獣医野生動物学者の人が引き取りたいといって、連れて行きました」

 ユキはそれを聞いて魂と体が分離しそうなほど卒倒した。

「なんで、そんな勝手なことをするの。トイラとキースは動物実験の動物じゃない」

 ユキは憤りで激しく乱れてしまった。

 良子はユキを抱きしめた。

「落ち着いて、ユキちゃん。ねえ、警察官さん、その獣医野生動物学者だけど、もしかして田島亮一?」

「ああ、そう言えばそういうお名前でした。眼鏡かけたちょっと冷血漢な雰囲気のする人でしたね」

「やっぱり」

 良子はどこかヤバイとでもいうような顔をしていた。

「良子さん、その人と知り合いなの?」

 仁は意外な繋がりに驚いていた。

「うん、ちょっとね。私も獣医だからね、彼の噂は耳に入るわ」

「良子さん、お願い、トイラとキースを助けて。私、なんでもする。柴山さんの事だって、告訴しません」

「ユキちゃん。柴山のことはいいのよ。あいつにはいい薬よ。でもこの件は私に任せて」

 良子は柴山の罪滅ぼしのためにも、自分がなんとかしなければとユキの肩をしっかりと両手で掴んだ。

 その時、後ろからユキを呼ぶ声がした。

「あれっ? 春日ユキさんじゃないですか。やっとみつけた。どこに行ってたんですか。事情聴取残ってるんですけど」

「あっ、あのときのおまわりさん。あの、お願いです。柴山圭太さんを釈放して下さい。私、罪に問いません。お願いします」

 ユキは一生懸命頭を下げて頼んでいた。

 トイラとキースの正体が発覚したことで混乱を招き、柴山の取り扱いは警察もあぐねていた。

 すでに柴山は悪くないと市民からの訴えもちらほらでてきて、ユキも罪に問わないといっている。

 本人も正気を取り戻したところで、取り憑かれていたと表現すれば、これもトイラとキースのせいに自然と流れていった。