「くそっ、何をする」

 黒豹の姿を怖がらず素早く近づいてくる行動に、さすがのトイラも不意をつかれ、動きをふさがれた。

「いえ、こんなこともあろうかと思ってね、麻酔を用意してたんだよ」

 トイラの体がふらふらと不安定に揺れ動く。

 必死で食いしばるが、突然ばたっと倒れた。

 気を奮い起こそうと試みるが、薬には勝てず、悔しい表情のまま意識が遠のいてあっさりと眠ってしまった。

「さて、礼儀正しい方の君も麻酔する? それとも自分で入る?」

 屈辱を感じながらキースは自らケージの中に入っていった。

 トイラが倒れてしまったこの時、狼に変身して戦うことすらできない。

 トイラは黒豹の姿のまま、田島に檻に押し込まれていた。

 そして二人は運ばれ、パネルトラックの荷台の中に入れられた。

 キースは思わぬ展開になってしまい、歯をキリキリと噛んで悔しがった。

「なんて狭いんだ」

 さすがの楽観的なキースも苛々が募る。

 人間の姿では体を折り曲げて、手錠をしたままではかなり苦しいポーズだった。

 仕方なくキースも狼になって檻にに収まった。

 手錠は手からはずれて、体も楽になる。

 飼い犬のように檻の中で大人しく体を丸めた。

 だが気分は情けなかった。

 隣の檻の中で眠らされているトイラを見つめて、深くため息を漏らした。

 車は静かに動き出し、カタカタと二人を閉じ込めたケージが小刻みに振動していた。