ユキが病院で姿を消すと、警察官二人は慌てていた。
 すぐに署に連絡を取っていた。

 警察官が病院内でユキのことを尋ねると、制服を着た女の子が部屋に入って窓から出て行ったという証言を耳にする。

 ユキは被害者なのに、なぜ逃げたのか警察官は首をかしげていた。

 側にジークが聞き耳を立てて立っていた。

 惜しいところで逃げられたことに悔しさが腹の底から湧き出る。

 仁との約束など何一つ守ることなど、はなっからなかったのだ。



 警察署の取調室では、トイラとキースが手錠をかけられたまま閉じ込められていた。

 殺風景な空間に机と椅子があるだけの部屋。

 窓は小さく鉄格子がつけられている。

 逃げられそうにもなかった。

「あー、腹減った」

 トイラは机を一蹴りした。

「おい、なんか食い物ないのか。腹減ったよ!」

「トイラ、落ち着け、あまり変な行動をするな。益々危険な存在と思われて、不利になるぞ」

「だけど、キース。俺達、豹や狼に変身するだけで、何も悪いことしてねぇよ」

「だからそれが人間には驚異的なんだよ。もうそれだけでこの世界では罪なんだよ」

 バタンと突然ドアが開き、トイラとキースは体を前かがみにして咄嗟に構えた。

 コツコツと靴の音を立てて、警察官ともう一人眼鏡をかけた学者らしき風貌の男が入ってきた。

 警察官は怯えていたが、眼鏡をかけた男は堂々として、トイラとキースを頭からつま先まで食い入るように観察していた。

 眼鏡が冷たい光を放している。

「なんだよ、こいつ」

 トイラが睨んだ。

 その男の目つきはまともな人間の目つきに見えなかった。

「君達が、噂の豹と狼に変身する化け物なんだな」

 眼鏡の男が言った。

「化け物とはなんだよ、失礼な」

 トイラは腹も減り、頭に血が上りやすくなっていた。

 威嚇体制で歯をむき出しにする。

 キースは止めろとトイラの前に立った。

「失礼ですが、あなたは誰ですか」

 キースが質問した。