廊下の角を曲がったが、病室のドアが見えるだけで外に続く出口がない。

 ──このままでは捕まってしまう。

 ユキの焦りは沸点に達して、発狂しそうになっていた。

 胸の痛みと、身も毛もよだつ恐怖心が体を容赦なく締め付ける。

 咄嗟に近くの部屋に飛び込んだ。

 そこは四人部屋だった。

 一つだけカーテンが開いて、中のベッドで寝ている人と目が合った。

 ユキはそんな視線もお構いなしに窓を見つけると一目散に走りより、窓を開けて飛び出した。

 幸い一階だったので、なんとかジャンプできる高さだったが、降りたとき、足がジーンとした。

 低木の茂みで、また擦り傷が増えた。

 これだけ逃げてもまだ胸の痛みは消えない。

 ジークがまだ近くにいる。

 苦しい、痛い、怖い、パニックで息もまともに出来ないほどユキは極限に追い詰められていた。

 目の前は網のフェンスで囲まれている。

 病院の壁とフェンスの狭い空間を走っても病院の敷地内から一歩も出られない。

 無我夢中でその フェンスに足をかけ、よじ登って反対側へ移動した。

 フェンスを超えると一目散に走って逃げた。


 どれだけ走っただろう。

 胸の痛みは消えていたが、息があがって苦しい。

 ジークから離れてほっとしたが、これからどこへ行けばいいのかがわからない。

 途方に暮れていると、見慣れた景色が現れた。

「あっ、ここ、仁の家の近くだ」

 ユキの足はそう思うや否や、仁のマンションに向かっていた。