──嫌だ!このまま死んでしまうのは嫌だ!逃げなきゃ。なんとしでも逃げなきゃ。

 ぶるぶると震えるユキに警察官は気がついた。

「どうしたんですか。気分が悪いんですか?」

「あの、ちょっとトイレに行きたいんですけど」

「ああ、トイレですか、それなら遠慮なくどうぞ行って下さい」

 ユキは、震える足でゆっくり立った。

 警察官にはこのとき、突然腹を下したとでも思ったことだろう。

 そんなことなどどうでもいいと、ユキは逃げることで頭がいっぱいだった。

 ──来る、近づいて来る。

 胸の痛みもどんどん強くなる。

 ──落ち着け、落ち着け、落ち着くんだ!

 ジークがの動きが機敏になり、ユキめがけて駆け寄る。

 ユキは無我夢中で走った。

 廊下を歩いている患者や、看護師にぶつかりそうになりながら、必死で出口を探した。

「一体出口はどこなのよ」