ユキは病院で検査を受けさせられた。

 泣き疲れ声までがらがらになり、ぐったりと骨が砕けきったように体がだらりとしていた。

 誰の目にも重度の病人と映っていたことだろう。

 実際は、トイラが庇ってくれたお陰で、体には何も異常がなく擦り傷程度で済んだ。

 普通なら足の一つや二つ骨折していてもおかしくない状況だった。

 または命を落としていたか――。

 病院の書類の手続きが完了するまで、廊下の長いすに座り、ユキは待たされた。

 警察官二人に付き添われ、この後事情聴取で警察署に行くと聞かされた。

 その時トイラとキースに会えると思うと、幾分落ち着いてくる。

 しかし、警察がとった行動がどうしても許せない。

 煮えたぎる感情がふつふつと胸の中でまたぶり返してきた。

「ねえ、おまわりさん、トイラとキースをどうするつもりなの? 何も悪いことしてないのに、どうして手錠なんかかけちゃったの」

 警察官も前代未聞の出来事に何をどう答えていいのかわからず、苦笑いするだけだった。

 ユキはプイっと駄々をこねる子供のように首をふった。

 力を入れすぎて首の筋が変になったかと思ったが、それは首の痛みじゃないことに気がついた。胸がキリキリと痛み出していた。

 ──嘘、ジークが近くにいる!? まさか

 血の気がすーっと引いていく。

 ドクンドクンと胸の鼓動が激しくなると同時に痛みも増してゆく。

 ユキは辺りを見回した。

 そして見てしまった。黒っぽいワードローブを纏った男が確かにそこに居た。

 ──あっ、どうしよう!どうしよう!

 ハラハラと敵に狙われる恐怖感。

 じわりじわりと追い詰められる。

 絶体絶命──。

 トイラもキースもここには居ない。

 このままジークが近づけば、胸の痣は 完全に満月になってしまう。

 トイラが命の玉を取る前に自分は死んでしまう──。