「どうしたの? もしかしてどこか苦しいの?」

 顔をゆがめ、トイラはまるで何かと戦っているようだ。

 手が一瞬ユキに触れようと動いたが、それを引き止めるようにぐっと体に力を込めて踏んばっている。

 その姿をみるとユキも一緒になって力んでしまった。

 何をそこまで躊躇っているのだろうか。
 話したければ話せばいいのに。

 だが、トイラはくるりと背を向けて、結局ユキを無視して向かいの部屋のドアノブに手を掛けた。

「えっ、ちょっと! 一体何がしたいのよ」

 明らかにトイラは何かを自分に話そうとしていたが、どこかで押さえつけて取りやめたとしかユキには思えてならなかった。

 ユキに背中を向けたまま、トイラは呟く。

「夕飯美味かった。ありがと」

 ユキが答える暇もないまま、トイラはさっさと部屋に入りパタンとドアを締めた。

 ユキは波に置き去られた海草のように置いてけぼりを感じていた。

「一体なんなのよ」

 口には不満を出してみるも、夕食を褒められたのは悪い気がしなかった。

 どんなに不可解でも、理不尽でも、トイラが取る一つ一つの行動が気になって仕方がない。
 あの緑の目がユキの心をどうしても惑わしていた。

 なんだか胸騒ぎがするようで、ユキは無意識に自分の胸元に手を押さえつけていた。