「ああ大丈夫さ。病院で念のために検査するんだろう。それよりも僕たちがどうなるかだ。正体がばれた今、放ってくれそうにもないな」

「まさか、火あぶりってことにはならないよな」

「ありえるかもな」

 キースは前方の警察官二人の怯えぶりを見ていると、嫌な予感がする。

 トイラは自分の言葉でこそこそと話し出した。

 自分の言葉とは、人間にはわからない黒豹の言葉である。

「逃げるのはいつでもできる。まずはこのまま警察署に行って、様子を見るしかない。そしてユキになんとしてでも会わないと、この騒ぎを聞きつけて、またいつジークが襲ってくるかわからない」

「ユキも病院で検査を受けたあと、事情聴取で警察にやってくるはずだ。そのときチャンスを見計らって、ユキを連れて逃げよう」

「逃げるって、どこに逃げるんだ。家にはもう戻れないぞ」

「一か八かだ。ジークが居るあの森だ。あそこは僕達の森にリンクされて、今繋がっている」

「キース、それは危険だ。太陽の玉を持つジークに近づけば、ユキの胸のアザが大きくなってしまう。もし満月になってしまったら、俺まだユキを助ける方法がわからない」

「しかし、ここにはもう居られない。危険な賭けだが、僕達の森に帰るしか道はない」

 ガラスの破片がばら撒かれた道を素足で踏むようなものだとトイラは思った。

 そんな危険な道しか残されていないことに、車の後部座席で目を瞑り頭をうなだれた。

 ユキの胸の月の玉がそれまでもってくれるか、そしてジークに見つからず自分の森に帰れるか、無謀な賭けだった。

 突然思うようにいかない怒りがこみ上げる。

 心の底からの震えが手先にまで振動した。

「くそっ!」

 このとき、人間の耳には豹の咆哮として届いた。

 前方に居た警察官二人は、悲鳴をあげて震え上がっていた。