運動場では学校中の生徒たちが、トイラとキースを乗せたパトカーを目で追っていた。

 特に2年A組の生徒たちの表情は固く、悄然としていてどう受け止めていいのかわからない。

 ミカは目に涙をためて、次第に小さくなって消えてくキースを乗せたパトカーをいつまでもいつまでも見ていた。

「キース、私の王子様が」

 気分は悲劇のヒロインのように啜り泣くと、物語の全てが悲劇の幕を閉じて終わったと心引き裂かれていた。

 ハンカチを手に握り締め、目頭をそっと押さえる。

 上品なお姫様を演じるつもりが、我慢できないほどの悲しみが押し寄せ、わんわんと叫んで泣いていた。

 仁は自分が犯してしまったことの重大さを、しっかりと受け止めていたつもりだが、身に火を放たれたような衝撃に落ち込みが激すぎて後味が悪くなる。

 自分が手錠を掛けられて、警察に連れていかれた方が似つかわしかった。

 運動場に集まっていた生徒たちが、先生の指示で教室に戻っていく。

 その人の波にのまれて仁もトボトボと歩き出した。

 時々、不安で意味もなく後ろを振り返る。

 警察や消防車がここには用がないと次々に学校から出て行く。
 全てが片付いたように見えても、仁の心の虚しさまでは拭えなかった。

 ──これでユキが助かるんだ。

 仁は強く正当化しようとこの事件のメリットを重視する。

 後はジークがちゃんと約束を守ってくれることを信じるのみだ。

 しかしどこか不安がよぎる。

 もしかして──、もしかしたら――。

 突然それは心にひびを走らせた。そこからじわじわ漏れ出す疑心。

 ──ジークは本当に信用おける奴なのか。

 もう一人の自分が問いかける。

 なんとか約束を信じようと空を見上げた。

 カラスが一羽、山の麓へ飛んでいくのが仁の視界に入った。