トイラとキースは二階の空いている部屋をそれぞれ宛がわれる。
 すでにベッドが設置されているゲストルームだ。

「あっちの奥とここ、ふたりでどっち使うか決めて」

 ユキが部屋を案内するが、ふと違和感を覚えた。

「そういえば、あなた達、荷物は?」

 身の回りの物を持ってきたような形跡が何一つない。

 スーツケース、またはせめてボストンバッグくらいあってもよさそうだったが、はなっから何も持ってなかった。

「荷物はそのうち届くんじゃないの。とにかく今日は休ませてもらうよ。なんせ時差もあったし、僕は疲れた」

 わざとらしく大きな欠伸を一つして、そそくさとキースは奥の部屋に入っていった。

 キースが行ってしまった後、ユキとトイラがその場に取り残された。

 狭い廊下にふたり一緒にいるのが気まずくて、とりあえずトイラにも気を遣ってユキは問いかける。

「トイラも疲れたでしょ」

 トイラは何かを言いたげにしながら、唇を震わせてじっとユキを見つめていた。

 ユキも期待して様子を窺っていたが、トイラが一向に口を開こうとしないので落ち着かなくなってくる。

「何か言いたいことでもあるの?」

 ユキが訊いても、言葉が伴わないまま、トイラは喉を押し殺したような苦しそうな喘ぎ声だけを出していた。