仁もまた、ユキのためとはいえ、この先が上手くいくか不安でたまらない。

 心を鬼にして踏ん張っているが、もし失敗した場合、ユキに嫌われるどころだけで済まない。

 ユキの命が危ない。

 何度も心の中で『君のためだから』と呟いて正気を保っていた。

 結果として、仁と柴山がやったことは町の役に大いに役立った。

 高校にも問い合わせが入り、学校側は宣伝になったと喜んでいた。

 町もなんの騒ぎかと野次馬がいろんなところからやってきて、みやげ物屋や地元の商店街の客が増え、挙句にそれを利用して、豹と狼饅頭などの商品まで便乗して現れた。

 そのうちグッズも流行のゆるきゃら風に作られて売られるかもしれない。

 黒豹と狼の需要はたくさん見込めた。

 町の住民誰もが、噂の真相を信じるどころか、この恩恵を受けて、トイラとキースに感謝していた。

 ほとんどの人が、本当のことだと信じるものはいなかった。

 ワイドショーも結局は町おこしに利用されたという結果に終わり、あっという間に騒ぎは沈静化へ向かった。

 柴山は町には感謝されたが、仕事仲間からそんな馬鹿らしいことをしてまで、出身地を盛り上げたのかと笑われていた。

 良子にまで笑われて、さすがに腹が立ったのか、このままで済まそうとは思わなかった。

 仁も思わぬ方向に事が運んでしまって、苛々していた。

 ユキには嫌われ、トイラとキースにも怖くて近づけない。

 逃げるような思いで学校ではおどおどしていた。

 またあの喫茶店で仁と柴山は、コーヒーを囲んで話していた。