「ジーク、またお前か」

 トイラは黒豹の姿となり、まだ体は充分に動けないが、ユキを守ろうと必死の攻撃態勢だった。

 キースも側で狼になり、牙をむき出して唸っていた。

「ちょっと待って、おかしい」

 そういったのはユキだった。

 そして黒いワードローブをまとった男は、黒豹のトイラと、狼のキースを見るや否や、急いで走って逃げていった。

 キースが後を追いかけようとしたが、ユキが止めた。

「待って! キース」

「どうしたんだユキ」

 トイラが人の姿に戻りユキの側に寄った。

 キースも人の姿になり腑に落ちない顔をしていた。

「あれはジークじゃなかった。全然胸が痛くならなかったし、背もジークより低かった。あれは……」

 ユキが言いかけたが、その後声に出さなかった。

(あれは、仁)

 いくら黒っぽいワードローブを身にまとって顔を隠していても、靴ですぐにわかった。

 咄嗟に逃げたのもトイラの近くでくしゃみしないためだ。

 自分の匂いに警戒して香水までつけて、キースの嗅覚をごまかそうとしてまで何がしたかったのか。

 ユキはこの時まだ仁の行動が読めなかった。

 ただ仁が何かをしようとしているのだけは、胸騒ぎとともに感じていた。

「とにかく家の中に入りましょ」

 三人は、すっきりしない表情で家に入っていった。

 ユキはドアを閉める前に釈然としない面持ちで、もう一度後ろを振り返った。

 辺りの暗闇がぬかるみを帯びた嫌な気配を漂わせているように見えた。