町の中心の賑やかな通りから、見逃してしまいそうな路地を入ったところに、昔から地元の人が飲みに来る古ぼけたコーヒー屋がある。

 店内は古いが、小奇麗で、光沢のあるアンティーク調の木のカウンターと、小さなテーブルが4つあった。

 柴山がこの町に住んでたときからの行きつけの場所でもあった。

 仁がドアを開けると、ベルがカランコロンと音をたて、香ばしいコーヒーの香りが押し寄せるように流れてきた。

「おっ、仁、こっちこっち」

 奥のテーブルに、柴山がコーヒーカップを手にして座っていた。

 日曜日の夕方の店内は、二人以外他に客がいなかった。

「なんか好きなもん頼め」

「じゃあ、ぼくもコーヒー」

 カウンター内の店主に目を合わせて、仁は頼んだ。

「お前、コーヒーが苦いとか言って嫌いだった癖に」

「いつの話だよ。小学生の時だろ。古すぎる」

 柴山は、そんなにも昔のことかと、笑っていた。

「で、話ってなんだい。しかも良子にも話せないことを俺と話したいって、どうしたんだ。もしかしてユキちゃんのことか」

「それもあるけど」

「でも、ユキちゃんは難しいぞ。トイラがいるからな。それに外国人でハンサムだし、俺が助言できることないぞ」

 柴山は諦めた方がいいぞと遠回りに伝えていた。

「違うんだって、恋のことじゃなくて、実は」

 仁の声が小さくなった。

 そしてもっと近くにきてくれと、柴山に手招きしていた。