誰が来たのだろうと三人顔を見合わせた。
 ユキが玄関に駆けつけると、紙袋をもった仁が立っていた。
 仁はユキに笑顔を向けるが、内心は複雑だ。
 ユキの顔を見れば、ジークの『今ユキを助けられるのは君しかいないよ』と言われた声が、またどこからか聞こえてきたような気がした。
 ユキは素直に歓迎している。
「上がって」
 仁は居間に通される。そこでトイラと目があった。

「トイラ、体の調子はどうだい?クシュン」
「ああ、大丈夫だ。ほんとにありがとう。仁が助けてくれたこと、とても感謝しているよ」

 トイラは猫アレルギーの仁に気を遣って、できるだけ離れた部屋の隅に移動して座り込んだ。

 仁はトイラの素直なお礼が、どこかまともに受け取れなかった。

 心の中ではジークとの駆け引きが常に渦巻いている。

 自分の心を誤魔化すかのように話しを変えた。

「ん? なんかこの部屋臭いね」

「これ、キースがトイラのために変な薬作ってたの」

 ユキが手でパタパタと風を起こすようにして、恥ずかしがっていた。

「変な薬とはなんだよ。僕だってトイラのためにやったことなのに。だけどさ、仁、その紙袋の中なんだい。なんかやさしい香りがするよ」

 キースは仁の母親の香水の匂いを嗅ぎつけていた。

「あっ、これ、ユキになんだ。僕の母から」

 ユキにその紙袋を手渡す。

 ユキは中身を取り出して喜んだ。

「もうできたの。うわぁ、なんてかわいいの。すごい。ほんとに貰ってもいいの」

 その素直に喜ぶユキの姿は、そこに居るものの心を和ました。

「ユキ、着てみてごらん。きっと似合うよ」

 仁がそういうと、ユキは嬉しそうに奥の部屋に走っていった。

 そして、暫くして、ユキが顔だけ出すように、ドア付近でモジモジしていた。

 その顔はどこか心配そうだった。