「方法だが、簡単なことだよ。君がトイラとキースの秘密を公に漏らせば、興味のある人間が食いついてくるだろ。それに、豹や狼の姿のままで捕らえられたら、奴らはすぐに動物園か、どこかの研究所送りさ。秘密がバレたら、もうここには居られないし、そして誰かが捕まえるか、または危険な存在だと判断して撃ち殺してくれるだろう」

 仁は、この時自分の置かれている立場を一瞬見失ってしまった。

 すぐに理性を取り戻し頭を左右に激しく振って払いのけ、はっきりといった。

「友達を裏切るようなことはできない。そんなの絶対嫌だ!」

「まあ、いいでしょ。一週間待ちましょ。私も今は体が弱りきっている。少し安静にして、体力を蓄えておきます。そして君がこの一週間以内に、何も行動に移さなかった場合は、仲間を連れてユキを奪いに行く」

 突然、豹変するかのように、容赦しない態度を仁に見せ付けた。

 仁の心臓は、急に激しく動いたのか、息苦しくなった。

 ジークはおもむろに立ち上がり、診察室を出て行った。

 仁はすぐに後を追う。

 待合室の受付で良子がお客と犬のケアについて対応していたが、ジークがポケットから何かを取り出して、粉のようなものを良子の方向に向けて振り掛けていた。

 それはキラキラと銀の細かい砂のようで、ゆっくりとその姿を消していく。

 柴山もまた待合室にちょうど入ってくると、同じようにジークは粉を振り掛けていた。

 何もなかったようにジークは堂々とドアから去っていった。

 心臓の高まりが暫くドキドキと高鳴りながら仁はその場で立ちすくんでいた。

「ねぇ、柴山さん。さっきの男だけど……」

 仁がそう言いかけたとき、柴山は不思議な顔をしていた。

「さっきの男? 誰かいたの? もしかして、良子の男か? おい、良子、ここに男が来てるのか?」

 慌てて接客中の良子に聞いていた。

「今、仕事中。そんな男、あんたしかきてないわよ。ごめんなさいね、ちょっとうるさいのがきちゃったもんで」

 良子は目の前のお客に気を遣いながら、答えていた。

(えっ、ジークのこと、二人は覚えてない。奴は記憶を本当に消してしまった)

 仁はジークの言っていた言葉を、このときになって深く考え出した。