「取引ってなんだよ」

「私がユキを助けられる方法を知ってるといったら、君はどうする?」

「嘘だ! お前はすぐ人を騙すそうじゃないか。誰が信じるか」

 そういわれることがわかっていたのか、ジークは、ふっと笑いを漏らした。

「トイラはユキを助ける術を知らない。私がユキに近づけばユキは確実に命を落とす。だったら私がユキに近づかなければいいことになる。どうせ人間の寿命は100年もないだろう。その間ユキが太陽の玉から離れて、月の玉を持ってればそのまま生きていられる。私の命は君達より遥かに長い。たった100年くらい待てるよ」

「いや、信じるもんか。それに逃げても、トイラは必ずお前を探し出して、太陽の玉を取り返すはずだ」

「わかってないな、君は。ユキが好きなんだろ。このままトイラにユキの心を奪われた状態でいいのか。ユキは人間だ。人間は人間同士だろ。トイラが居る限り、ユキの心はずっとトイラに向いたままだ。君には絶対振り向かない」

「何がいいたい?」

 仁は苛々していた。

「だから取引だっていってるんだ。君がトイラとキースをこの町から追い出す。そうすることで、私はユキに無理やり近づかないと約束しよう。さらに私の力で、ユキからトイラの記憶を消してあげるよ。そして私はただユキの寿命が燃え尽きるのを待つだけだ。そうすれば君はユキを助けたことになる」

「そんなことできる訳がない」

「それは、君が実行できる訳がないと言ってるのかい? それとも私が約束できる訳がないと言ってるのかい?」

「どっちもだ」

「なるほど。じゃあ、ユキをトイラに取られたままでいいのか。そして、もしトイラがユキを助ける方法がわからなかった場合はどうだ? ユキは永遠に君の前から消える」

 最後の言葉だけ声を低くして、意地悪くジークは言う。

 仁は、それに反応してはっとしていた。

「どうだい、これでも、私と取引しないのかい? ユキは本当にこの世界に未練はないんだろうか。今ユキを助けられるのは君しかいないよ」

「ユキを助けられるのは、僕だけ……」

 仁は、ユキを救いたい気持ちで心揺れ動く。

 心の微妙な変化を、ジークは仁の睨みが緩んだ目から感じ取った。

(フフフ、迷っている)