「倒れたところを助けていただいた上に、傷の手当てまでして下さって、ありがとうございます」

 ジークは丁寧にお礼を述べた。

「あら、あなたも日本語が上手いのね。だけど、こんな傷だらけになって、一体何をしたの」

 良子はトイラの怪我といい、ジークの怪我といい、二度も外国人の手当てをして狐につままれたような気分になっていた。

「ちょっと猫の尻尾を踏んでしまいまして、引っ掻かれたという訳で、お恥ずかしい限りです」

 ジークは情けないといわんばかりに、苦笑いを浮かべていた。

 良子はどこか納得いかない顔になりながら、首を傾げていた。

 だがジークは嘘を言ってないと仁は思った。

「あんた、トイラって少年を知ってるか」

 柴山が、突然、単刀直入に訊いた。

「いえ、知りません。それが何か」

 ジークは穏やかに嘘をついた。

 そのとき仁は、『嘘つき』といいたくなるも、それをここで声に出して言えないことにぐっとこらえた。