柴山が車を走らせていると、目の前に細身で長身の男が、与太ついて歩いているのが目に入った。

 普通に追い越したが、バックミラーで再度その男をみれば、地面に倒れこんでいる。思わず車のブレーキを踏んだ。

 車を降り、心配して駆け寄って体を起こしてやる。

「おい、しっかりしろ。大丈夫か? あらま、また外国人」

 それはジークだった。

 柴山はジークを抱えながらニヤリとしてしまう。

(顔も体も傷だらけだ。さっきのトイラといい、これは何かあるぞ)

 迷わず、その男を抱きかかえて、車に乗せた。


 仁は動物病院で、良子の話し相手となっていた。

 柴山が現れて、良子は昔のことが蘇ったのか、愚痴をツラツラと吐き出していた。

 仁は同じことばかり何度も聞いたのか、うんざり気味だった。

 しかし、友達を手当てしてもらった恩があるので、我慢して付き合うしかなかった。

「それでね、仁、あいつほんと勝手な奴で、必ず立派なカメラマンになるからとかいいながら、結局挫折して三流止まり。私が先に夢を叶えたから、劣等感抱いちゃって、最後は喧嘩別れってな感じよ。どうして男ってプライドが高いのか」

「良子さんは、結局はまだ柴山さんのことが、どこか忘れられないんじゃないの。だって甥の僕から見ても、良子さんってきれいだしさ、もてると思うのに、その年で未だに結婚しないっておかしいよ」

「やだ、仁、あんたもそんな生意気な口をいうようになったのね。このぉ」

 良子は仁のほっぺをつねっていた。

 仁は痛がっていたが、これも我慢だと耐えていた。

 そのときまたドアが開いて柴山が戻ってきた。

 ジークを肩で担いでクリニックの中へと入ってくる。