「ところで、なんであんたがこんな田舎町にまた戻ってきたのよ」

「いや、それがこの町で狼や豹が出るって、噂聞いてさ、自分の出身地だろ、ちょっと興味もって調べにきたのさ」

 その言葉で、ユキもトイラも仁も、ドキッとした。

「仁、学校とかでも噂になってないか。よかったら詳しいこと教えてくれないか」

「えっ、僕、そんな話、聞いたこともない。なあ、ユキも知らないよな」

 焦りながら、思わずユキに助けを求めようと話を振った。

「えっ、わ、私も知らないです」

 二人の慌てぶりに、スクープの匂いを感じたのか、柴山の目が光った。

「そうかな、ネットでは結構話題になってるように思ったんだけど。まあ、いいや。また自分で探すさ。それより、その外国人さん。なんかかなり参ってそうだね。ずっと動物用の診察台で横たわってるし。何があったか知らないけど、なんなら車で家まで送っていってやろうか」

「そうしてやって。この状態じゃ、歩けそうもないしね。あんたもたまにはいいこと言うね」

 良子が言った。

「当たり前さ。どうだい、俺達もここらで寄りを戻すっていうのも」

「それは余計」

 手を出そうとしていた柴山に良子はさらっとかわしていた。

 柴山は、何か面白いことはないかといつもアンテナを張っている。

 トイラを車に乗せてやると提案したのも、棚から牡丹餅でも落ちてこないかという動機からだった。

 ほんの些細なことでも見逃さない、そういう男であった。

 ユキはそんなことも知らず、ただ有難いことだとそのときは素直に思った。