「あなたの体の筋肉って、すごいのね。細身なのに、筋肉の密度が高いこと。まるで猫の筋肉みたいよ。瞬時にジャンプできそうな感じね。とりあえずこれでよし。何かおいしいもの食べて、安静にしてよく寝たら筋肉の疲労も回復するわ」

「どうもありがとうございます」

 トイラはお礼を言った。

 ユキも側で一緒になって感謝の気持ちを述べていた。

「名前はトイラとか言ったね、日本語上手そうね。さて、話してもらおうかな、一体どうしたらこんな傷がつくの」

 離れていた仁が良子の質問にあたふたしていた。

「良子さん、何があったかって、そんなこといいじゃない。とにかく治療ありがとう。さすが良子さん!」

「仁、なんでそんなに離れてるの?それにあんたが褒めるときは、必ず裏があるんだよね」

 仁は訝しげに見る良子の顔に、たじたじしていた。

 良子は診察台に横たわるトイラに視線を向けた。

 そして顔つきが変った。

 トイラは診察で人間じゃないことがバレたかと、不安で落ち着かない。

「トイラ、あなたって……ハンサムね。お兄さんとかいない?」

 みんな、一気にダレるように体に負担を感じていた。

「もう冗談よ。とにかく事情を話せないのなら、仕方ないわね。正義感の強い仁に後は任せるわ。自分たちで解決しなさい」

 仁の言ったとおり、良子は話のわかる人だった。

 だが、口には出さなかったが、トイラに対して何か怪しい感覚を抱いていた。

「おーい、良子! いるか?」

 待合室から突然声が聞こえた。

 その声を聞いて、良子の顔が歪んでいた。声の主を嫌っているらしい。

「誰もいないから、帰って!」

 診察室から愛想のない声で良子は答えていた。

「おいおい、相変わらず冷たいよな。久しぶりに会いに来てやったのに、なんだよその態度は」

 ジーンズに白いポロシャツ、サングラスをかけた男が、かっこつけたように現れた。

 サングラスを取って、良子に少しでもかっこよく見られたいのか、背筋を伸ばし、ウインクして笑っていた。