「良子さん、頼みがある。クシュン。トイラを手当てして」

「えっ、手当てって、この外国人? 私、獣医よ。人間は専門外よ」

「どうかお願いします」

 ユキも頼んだ。

「あら、もしかして、ユキちゃん? わあ、会えるなんて思わなかった。この間、姉からちょうど話を聞いたところなの。でもあなたも怪我してるみたいね。一体何があったのよ」

「クシュン、だから、詳しいことは後でいいから、とにかく消毒だけでもお願い。クシュン」

「それにしてもあんた、相変わらず、猫アレルギーね。あれ? でも今日猫居ないわよ」

「クシュン、居なくても、ここには染み付いているってこと。クシュン。とにかく早く」

「わかった、わかったって。じゃあ、こっちつれてきて。でも人間を乗せるベッドなんてないわよ」

 仁は動物の診察台の上にトイラを寝かした。

 トイラは体をくの字にして横たわった。

 良子は上着とシャツを脱がして、その体を見 てびっくりする。

「どうしたの、この体中の傷。あなた、もしかして、かなりのやんちゃな外国人ね。喧嘩ばっかりしてたんでしょ。でもこれ、動物の爪あと?」

 良子が不思議な顔をしている側で、トイラは苦笑いしていた。

 良子は器具と人間に使えそうな薬を出して、トイラを治療してやった。

 仁はくしゃみをしないようにできるだけ離れていた。

 トイラの側で心配するようにユキは様子を伺う。

「筋肉が疲労してるみたいね。あら、これ肉離れしてるんじゃないの。この肩の傷口も酷いわね。一体何をしたの。 とにかく化膿しないようにしなくっちゃ」

 ぶつぶつと独り言を言っては、できる限りの手当てをしていた。

 獣医といえど、人の体に包帯を巻くのは、てきぱきと手つきが慣れたものだった。