「おはよう、春日さん」

 感情のないミカの声。ユキがゆっくり顔を上げれば、覇気のない目を向けユキを見下ろしている。
 怒っているわけでもないが、その無表情さが機嫌が悪い印象だ。

「おはよう……五十嵐さん」

 全ての嫌がらせはミカだったと知ったこのとき、ユキも笑顔など見せられるものではなかった。

 何か直接嫌味でも言われそうで、ユキは慎重にミカに対処する。

 トイラも様子を窺い、何かしでかしそうなミカに注意を払っていた。

 その時、ミカは急ににこっと笑いだし、不穏な空気が一蹴された。ごそごそと鞄から何かを取り出し、それをユキに差し出した。

「実は昨晩クッキー焼いたんだ。よかったら食べて」

 かわいいプレゼント用の透明の袋の中に手作りのクッキーが入っている。

 まるで店で売っているような仕上がりだった。

「これを私に?」

 ミカはにこっと微笑む。

 何だか妖しすぎてユキは懐疑心を持ってそれを見てしまう。

「トイラもよかったら食べてね」

 同じものをトイラにも渡していた。

 ユキが何かを言おうとしたとき、担任の村上先生が教室に入って来たので、ミカは慌てて自分の席に向かった。

 トイラもユキもお互い顔を見合わせた。

「急にどうしたんだろう」

 ユキが小声で耳打ちすると、トイラも首を傾げていた。

 ミカの作ったクッキーは、机の上で不審物のような存在感を出していた。