「そうよ。海外暮らしが長かったけど、ここで育ったことには変わりないわ」

「ここで住もうとなんで思ったの?」

 キースが言った。

「この土地を選んだのは父なんだけど、なんでもこのあたりは自然の宝庫で、山には沢山動物がいてそれが気に入ったんだって。父はこの辺りには人を化かす狐や狸がいるとか言っていたわ」

「そんなのがいるのか?」

 トイラがはっとした。

「やだ、ただのこの辺にまつわる民話に決まってるでしょ。トイラって案外騙されやすいのね」

「あっ……」

 トイラは騙されやすいという言葉にハッとし、その後は口をつぐんだ。
 先ほどまで普通に話していたのに、また近寄りがたい雰囲気が漂ってきた。

「そんな話は後でいいから、早く僕たちを家に案内してよ」

 キースにせかされ、ユキは鍵を開けに玄関に近づいた。

 解錠して引き戸を開け、自分が先に入ってからふたりを中に招きいれようとするが、まずは首だけ突っ込んで念入りに匂いをかぎだしたのでびっくりしていた。

「ちょっと、臭いとでもいいたいの? とにかく上がって」

 ユキが憤慨したので、ふたりは三和土にさっさと踏み入る。言われたまま家の中に上がり込むが土足だった。

「ああっ! 靴! 靴脱いで!」

 急に叫んだユキにふたりは驚き、その場で慌てて靴を脱ぎだし、三和土に放り投げた。