楽しい思い出を作り満足した後、二人は家路に向かう。

 田舎道をふたりで手を繋いで歩いているときだった。トイラが呟いた。

「そういえば、昨日は仁とユキが手を繋いでいたよな」

「あっ、あれは手を引かれていたようなもので、繋いでたとは……」

 ユキは言い訳して、しゅんとしてしまう。

「いいんだよ、もう気にしてない。あの時は辛かったけどな」

「私だって、トイラが五十嵐さんと腕組んで歩いてるの見たら、辛かったわ」

「ああ、ごめん。ついユキに嫌われようと利用しただけだ。だが、あいつは油断がならない。ミカには気をつけろ。あの嫌がらせのメモを机に入れたのもミカだ。あいつはユキのこと嫌っている」

「えっ、嘘。五十嵐さんが…… じゃあ、あの嫌がらせは全部、五十嵐さんの仕業なの」

「嫌がらせ? 他にも何かされたのか」

「えっ、ううん、なんでもない」

 ユキは正直に言えなかった。

 言ってしまえば、トイラは我を忘れて怒り、ミカに攻撃をしかけるかもしれない。

 済んだことは忘れたかった。

「とにかく、俺がお前を守るから。安心しろ」

 トイラはユキを自分に引き寄せる。

 その強く抱きしめる力はユキを安心させ心を強くさせる。

 トイラに恋して後悔などない。例え自分の命が脅かされてようと。

 出会えなかったことを想像する方が悲しくなる思いだった。