園内を殆ど見終わった後、人があまり来ない動物園のはずれをユキとトイラは歩いていた。

 ユキはそっとトイラの横顔を見つめる。

 トイラが気づいてユキに視線を向けた。

 その目は優しく微笑んでいる。

 もう睨んだあの怖い顔は見せることはなかった。

 睨まれていてもあの緑の目にユキは魅了されていたから、初めて出会ったときから釘付けだった。

「なんだよ、そんなに見つめて、俺の顔になんかついてるのか」

「その緑の目に魅了されるの。一度見たら忘れられないほどに。今日周りにいた人たちもそうだったね。トイラに見惚れてた。外国人だし、ハンサムだし、もてる要素たっぷりだよね」

「でもユキは、俺が黒豹の姿でも好きでいてくれるだろ」

「もちろんよ。その緑の目。これだけは人の姿のあなたでも、黒豹の姿のあなたでも、全く変わらない。私はあなたがどんな姿であっても、大好きよ」

 素直に自分の気持ちが伝えられる。
 ユキはどきどきと胸が高鳴っていた。

 恋する純粋なユキを見ると、トイラも気分が高揚する。

 感情が湧き出て飛び跳ねたくなり、つい黒豹の姿になった。

「えっ、トイラ、それは……」

 ユキは思わずトイラに走りより、周りから隠すように、黒豹のトイラの首に抱きついた。

「トイラ、見つかったら、あんたここの動物園行きよ。それこそジャガーと同じ場所に入れられちゃうわ。そんなの嫌」

「ほうら、よく見てごらん」

 ユキが再び見ると、トイラはもう人の姿に戻っていた。

「もう、冷や冷やさせるんだから」

「いつまで抱きついてんだ。それこそジロジロ見られるだろうが」

「いいの、これは」

 マジかで見るトイラの顔。まだ一度もキスをしていない。

 こんなにも好きなのに、近くにいるのに、どうしてキスの一つもしてくれないのだろう。

(自分から迫ってみようか)

 トイラの顔を見上げて、ユキは口を突き出してみた。