辺りは薄暗い洞窟の中、目を凝らせば、かすかに周りがぼやっと見える。

 ゴツゴツとした表面に、所々ぬるっと艶を帯びたねっとりしたものがこびりついていた。

 地下水を含んでいるのか、時折上から水滴が滴り落ちる。

 ピチャっと地面で跳ねる音が遠くまで良く響き、辺りは静粛しきっていた。

 その洞窟の中で、ジークが左目を押さえ、傷ついた体を丸めてうずくまっていた。

 悔しいのか、寒いのか、体が小刻みに震えている。

 殺伐とした、寂しい空間は、ジークの孤独の心を映し出しているようにも見えた。

 トイラに引っかかれた背中と左目が、キリキリと痛み熱を帯びている。

 体が衰弱し回復まで時間を要した。

 しかし、目の前の大きなものを早く手に入れたいがために、心は待ちきれない。

 すぐにでも、ユキに近づいて、痣を満月にしたいが、このままで はトイラとキースにやられるのが目に見えていた。

 黄金に光る太陽の玉が、ジークのもう片方の手のひらの上で、弱い光を放ちながら浮いている。

 大蛇の森の守り主の前では、光り輝いていた太陽の玉も、 ジークの前では消えかけたランプの光のように、チロチロと不規則に強弱している。

「くそっ、早く月の玉が欲しい。これだけでは力は不自由分だ。折角あともう少しだったところを、トイラも、キースも邪魔しやがって。あいつらをユキから離さなくては」

 ご馳走を目の前にしながらありつけない。あともう少しだというのに。じれったい気持ちがジークを苛つかせる。

 ジークは太陽の玉の中を覗く。

 トイラを倒すために、あらゆる役に立ちそうな邪悪な力を探していた。

 そしてそこに映し出されたのは、五十嵐ミカの姿だった。

 教室で授業を受けているのか、ノートにシャーペンを走らせメモを取っている。

「誰だ、こいつは。しかしトイラに対して私と同じ思いを持つようだ。使えるかもしれない」

 ジークは、太陽の玉の中に映ったミカを見つめ、ニヤリと笑みを浮かべていた。

 焦る気持ちを抑え、夜になるのをじっとその洞窟で待つことにした。

 今度こそトイラをやっつけてやる。これは上手くいく。

 自分の計画に満足し、ニヤついてミカの様子を太陽の玉で暫く覗き込んでいた。