逃げても家に帰れば顔を合わすのに、無駄なことだとわかっていても、トイラの近くにいることが苦しくて、無意識に逃げてしまう。

 トイラもまた走って追いかけたくなる気持ちを必死に押さえていた。

 記憶があるなしかかわらず、ユキもトイラもどちらも苦しんでいた。

 家がポツポツと建っていて、周りは畑だらけの田舎道。

 遠くには山が屹立し、のどかな田園風景なのに、ユキの心は荒れて険しい崖道を歩いているようだった。

 腹立ちまぎれに、ユキはつい小石を蹴ってしまった。

 道沿いのすぐ隣の田んぼでは小さな稲の苗がそよそよと風に吹かれていた。

 そこに、大きな鳥が数羽たむろしている。

 どうやら青鷺のようだ。

 固まって沢山見るのは珍しい。

 そのうちの一羽がユキを見ると、縮んで曲げていた首をまっすぐにして起き上がった。

 残りの青鷺たちもそれに合わせて一度にユキに顔を向けた。

 細い先の尖がった嘴が、狙いを定めた矢の先にもみえたとたん、それらは羽を大きく広げ、さっと飛び立ってユキめがけて襲ってきた。

 大きい鳥が数羽一度に飛行してくる。

 ユキはとっさに逃げるも、足がもつれて転んでしまった。ユキはうずくまる。

 そこを容赦なく、青鷺のくちばしが次々と突付きだした。

「ユキ!」

 トイラとキースが血相を変えて飛ぶようにやってきた。

 鞄や足で鳥たちを蹴散らし追い払う。

 いくつかの羽を飛び散らせて、鳥たちは飛んで逃げていった。