「やっとこれで自由になったよ。と、言うわけで、ユキ、改めてよろしくね」

 ウインクをしてキースは悪びれることなく愛想を振りまいた。

 そこには言葉の壁など全くなく、日本語が違和感なく飛び出している。

「ちょっと待ってよ。えっ? 日本語話せるの?」 

「まあね、僕達は言葉には困らないってことさ、なあトイラ」

 キースに話を振られたが、前かがみみの猫背丸出しで歩いているトイラはまだ仏頂面で黙ったままだった。

「ということは、トイラもフリをしているってこと?」

 半信半疑でユキが質問した。

「そっ、そういうこと」

 キースがトイラの変わりに答えてやった。

「どうして、そんなことする必要があるの? 話せるんだったら普通にすればいいじゃない」

「だから、こっちにも訳があるってこと。それにみんなだって僕達が日本語ペラペラだって思ったらつまんないだろう。ちょっとした演出さ」

「演出?」

 馬鹿みたいな答えにユキは呆れかえった。

 そのせいで自分に問題が降りかかり、こっちは迷惑しているというのに、あまりにも納得いかない。

 一体何がしたいのだろう。

 疑問が湧くと同時に怒りまでこみ上げ、ユキはこのふたりと一緒にいるのが嫌になってしまった。

「そう、わかったわ。演出するなり、好きにすればいい。私も聞かなかったことにするから、だからこれ以上付きまとわないで。どうせ私がいなくても何も問題ないんでしょ。それじゃ私の家こっちなの。ここでお別れだから」

 踵を返して早足で先を急いだとたん、後ろにいたはずのキースがユキよりも素早く機敏に動いて前を立ちふさがった。