時を刻んだ樹齢何千年とも言われるごつごつとした立派な大木。

 森の重鎮として存在している。

 歪で曲がりくねった幹はさらなる枝幹がいくつもに分かれて張り出し、その姿はまるで恐ろしい生き物のようだ。

 森の歴史を知り尽くし、見るものを畏怖させて誰も容易に近づけさせない威厳があふれていた。

 神として祭られるように、この森の動物たちには神聖の場だった。

 恐れ多くて気軽に近づけない雰囲気があった。

 だがトイラだけは違う。

 自らそこへ背中をもたれてどっしりと腰を据えていた。

 トイラにはその神秘的な威厳溢れる木こそ、自分に相応しいと、好んでいつもそこに座っていた。

 その木にはトイラにしか分からない魅力がまだ色々とあるからだった。

 ユキがトイラを探すときは、決まってその木の下へ行く。

 冬の寒い日というのに、風吹く中、落ち葉をクッションにして、その日もトイラは座っていた。

 ユキはよつんばになってそっと自分の顔を近づけた。

 じっとトイラを見つめて、ぽつりと言った。

「トイラは、いつまで経っても、その姿なのね。年を取らない。私はやっとあなたに追いついたけど、これからは追い越しちゃうんだ」

「俺は森の守り駒。動物と人間のどちらの姿も持つことを許されている。そして遅く流れる時の中でゆっくりと過ごす。人間の時間とは異なる世界」

「そっか、じゃあ、いずれ私の方が早く死んじゃうんだ。変な言い方になっちゃったけど、トイラは人間じゃないもんね」

 ユキは寂しく言った。

 その言葉はトイラに衝撃を与えた。

 命の長さが違う。生きる世界が違う。

 ユキはいずれいなくなってしまう。

 失うものなどなかったトイラにとって、大切なものが自分から消えてしまうことが、どんなに怖いことか、このとき初めて恐怖が芽生えた。