徐々に生徒が教室に入ってきた。
 少しずつ、人の声でがやがやとざわめき始める。

 そしてトイラとキースもやってきた。

 ミカは、まだトイラと腕を組んでいる。まるで恋人気取りのように。

「オハヨー、ユキ。サキ ニ イク ナンテ サビシカッタ ヨ」

 キースはいつも通りに接してくれてたが、何も答えられずユキは笑ってごまかす。

 トイラと目が合うが、ミカがいるせいで、どこかユキには気ますい。

 『おはよう』すら言えなかった。

 トイラも相変わらずの仏頂面だが、口を一文字にして酷くなっている。

 エメラルド色の緑の目も、生気を失って光を放っていない。

 プイっと横向いて、だるそうに椅子に座っていた。

「あら、春日さん。おはよう。早いのね」

 ミカは優越感を得た顔つきでにやっとしていた。

 ユキは小さく「おはよう」と返事するのがやっとだった。

「昨日のカラオケ最高だったんだよ。二人ともすごく楽しんで、特にトイラと私はずっと一緒に過ごしたのよ」

 得意げに話すミカ。だけどトイラは否定もせず何も言わない。

 嫌な顔もしていない。感情を出さない、空っぽの表情だ。

 キースもそれを深刻のように捉えて眉間にしわを寄せていた。

 ユキが悲しい目でトイラを見ると、トイラはお前など知らぬという態度で目を逸らした。

「えっ」

 思わずユキは声をもらした。