しかし、キースのお陰で場の雰囲気が変わったことは有難かった。

 ユキは何も言わず一歩引く。

 その間に、キースはマリに色々と質問し、マリはたどたどしくも必死にそれに答えていた。

 キースのもつ優雅な雰囲気は、ぎすぎすした対立をもなくしていく。マリはキースに乗せられて次第に会話が弾んで笑い声まで飛び出した。

 そこに他の女生徒たちも集まって、和やかになっていく。
 キースは集まったみんなに気を遣い、誰をも魅了してやまなかった。

 誰かがたどたどしい英語を使い出し、キースはそれを素直に褒めている。
 日本語と英語の単語が混じって、まるで英会話の授業のようになっていた。

 ユキには日本語で話せと言っておきながら、他の女子たちには英語を話せと催促しているようだ。

 キースはユキの抱えている問題を読み取って、調和させようとしているのではないだろうか。

 偶然だとしてもキースの咄嗟の気遣いはユキには有難かった。

 少しほっとして緊張が解けたとき、トイラの視線を感じ振り向いた。

 目が合うと、トイラは慌ててプイと横を向く。

「ねぇ、トイラ、なんで私を避けるの?」

 ユキはいたたまれなくて、日本語で問いかける。

 トイラは逡巡するも、ゆっくりとユキに振り返った。