明らかに何かがおかしい。

 いつまでもトイラとキースは気がかりにユキの様子を窺う。

 ジークの罠かもしれない。

 しかし、ユキが冷静を装う以上、確かめる事ができず二人はもやもやしていた。

 ユキも内心穏やかではいられるはずがなかった。

 カッターで切った指先の傷は幸い浅く、血もすぐに止まり、そこに触れない限りユキは痛みを感じなくても、その衝撃はいつまでも体にのこったままだ。

 まだ心のどこかで否定して、自分を保とうとしている。

 こんなのどうってことない。

 心の動揺を抱えたまま、一時間目の授業は始まった。

 無難に授業が進めば、黒板に書かれた事をノートに書き込んでいく作業が始まる。

 ただ見たものをそのままノートに書き込むことで、何も考えずにすんだ。

 一時間目が終わると、みな慌しくなる。
 二時間目は体育の授業で着替えをしなければならないからだ。

 ユキも体操服を持って更衣室に向かう。
 トイラは追いかけられないために、不安な面持ちだった。