ユキが混乱して、キースに助けを求めるように振り返ると、キースはお手上げといいたそうに肩をすくめた。

「ソノウチ ナカヨク ナレル……」

 キースは慰めてくれたが、ユキはトイラの態度に納得いかなくて立腹していた。

 トイラがこっちを見てないのをいいことに、ユキが後ろでフギャーと猫が威嚇をするような腹いせの声を発するとトイラの耳がピクッとしたように見えた。

 何か言い返してくるのではと思っていたその時、声を掛けてきたのはクラスメートの矢鍋マリだった。

「あら、春日さん、さすが帰国子女ね。英語でペラペラと見せ付けてくれること」

 クラスでも目立つ存在で、女子からの信頼が厚い姉御肌的な彼女は、気に入らないものを目にすると露骨に口をだす。

 ユキの目から見ると、先頭に立ってユキをいじめるリーダーに思えた。

 ふたりの間に不穏な空気が流れ、ユキが黙り込むと、代わりにキースが話し掛けた。

「ヤア、キミ ハ ダレ?」

 澄んだブルーの瞳と白い歯がのぞいた優しい微笑みはマリをドキドキとさせた。

「あっ、私はマリ。あの…… その…… 」

 キースの心に沁みるようなやさしい笑顔にはマリも敵わなかった。

 マリは頬をピンクにほんのりと染めて恥らっている。

 普段気の強い、意地悪なマリがキースを前にしてもじもじしている姿をユキは呆れて見ていた。