真司のことを奇怪な目で見る生徒は住宅街に近づくにつれて減り、無事に家の前まで着くと真司は安堵の息を吐いた。

「真司、家の者はおらぬのかえ?」
「はい。両親は今頃仕事ですから」
「そうか。ふむ……」

 菖蒲の考え込む姿に真司は首を傾げたが、気にせず玄関の門扉を開け、菖蒲を招き入れる。

「どうぞ」
「うむ。お邪魔するぞ」

 真司の家は、学校から歩いて五分ほどの一軒家が建ち並ぶ通りにある。家の前で菖蒲はなぜか、隣近所の家と真司の家ヲ見比べている。

「それにしても、お前さんの家は立派な洋風じゃの。なんともかわいらしい。ドールハウスにありそうな家やねぇ」
「引っ越してきたばかりで、リフォームしたんです。中でも庭の手入れは母の趣味なんですが……僕も父も恥ずかしいぐらいです……」

 ドールハウスとまではいかないだろうが、庭には季節の花が植えられているだけでなく、小さな動物の置き物などがある。真司も、メルヘンチックすぎるとは思っていた。他人にそれを指摘され、恥ずかしい気持ちになる真司だが、ふと、小さな疑問が頭によぎった。

 ――というか、今、菖蒲さん、『じゃの』って言ってなかった? いや、さっきから言ってるよね……?

「ふむ。どうりでお前さんはこの土地の言葉を話さないわけやね」
「そうなんです。僕は、もともと東京生まれなので」

 確かに、転校してきた当初は、クラスメイトは標準語で話す真司に興味津々で話しかけてきた。

『関西弁にせぇへんの?』
『うわぁ、標準語で聞くと、なんかめっちゃゾワゾワするわぁ』

 そんなふうに言う者もいた。
 やがて人と接することを避けているうちに生徒たちの熱も冷め、自然と真司から離れていった。それに、家では家族も標準語なので、真司は自分の話す言葉について次第に気にしなくなった。
 真司が全然話さないのもあるのか、一度興味の熱が冷めてからはクラスメイトも真司の喋り方については特に追求しなくなった。そのかわり、話しかけてくることもなくなったが……。
 少ないながらも学校での友達はできたが、その友達も真司の話しかたについては気にしていないようだった。

 それよりも、真司は菖蒲の喋りかたの方が気になっていた。

 ――菖蒲さんの話かたは、大阪の言葉というより、なんだかお年寄りみたいだなぁ。かと思えば、京都の舞妓さんみたいなときもあるし……う~ん……謎な人だ。

 不思議に思っている真司とは裏腹に、菖蒲は納得したかのように頷く。

「ふむふむ。なるほど。して、掛け軸はどこぞ?」
「あ、そうでした。今、持ってきますので、僕の部屋で待っていてください。部屋に案内しますね」
「あい、わかった」