家に帰ると、すぐにスマホが鳴った。たぶん、佐原。というか、佐原以外に連絡してくる人はいない。

私はメッセージを見ることはなく、スマホにも触らなかった。


いつもなら自分の部屋に直行する足はリビングへと向かい、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して一口飲む。

こうして冷蔵庫を勝手に開けることも実はまだ躊躇いがあって、みんながいる時には絶対にやらない。


そういうルールが他にもあって、例えば家の電話は取らないとか、掃除機はかけても物には触らないとか、お風呂上がりのドライヤーは絶対に自分の部屋でかけるとか、まだまだたくさん挙げればある。


それは、全部言われたからではなく、私が自発的にやってること。



六年間この家で暮らしているけど、感覚としては暮らさせてもらってるという気持ちのほうが強くて、身の回りの物だって使う時にはかなり気を使う。


この家は、私の家じゃない。
そして家族も、私の家族じゃない。


そう心で言い続けて六年が経ってしまったけど、その時間が早かったのは長かったのかは、よく分からない。