「身体温まるもの食えよ。学食にある豚汁うまいよ」
「……うるさい」
海月は迷惑そうに俺に背を向けてしまった。
布団をかけていても分かる華奢な背中。
身長はおそらく女子の平均ぐらいはあるし、特別に小さいわけでもないのに、なんていうか、海月は全体的に薄い。
「なあ、俺、岸って言ったら海月だから」
「は?」
唐突に投げた言葉に海月が顔だけを少し傾けた。その表情はビックリというより、なにを言ってるんだろうと困惑しているように見える。
「なんか俺さ、お前以外可愛いと思えなくなっちゃった」
同級生の友達ほど女に飢えてるわけでもないけど、タイプな顔がいたら普通に「お」って思ってたし、美人な先輩に声をかけられたらラッキーとか健全な思考は持(も)ち合わせていた。
でも海月が気になるようになってから、それがぴたりとなくなり、誰を見てもまったく興味すら抱かなくなってしまっていた。
ああいうことがあったから惹かれているのか、それとも掴み所がない彼女が心配なだけなのか。それは自分でも説明がつかない。
でも、気になる。
いや、今はそれよりももっと上。
こんな風に青い顔をしてベッドで寝てるなら、連絡ぐらいしてくれたらいいのに。
そしたらどこにいてもすぐに駆け付けるし、ずっと隣にいる。
それで、いつか話してほしいと思う。
その小さな身体に背負っているであろう、なにかを。
「あっそ」
海月の返事は一言だけだった。
それでも、どっかに行けとか、迷惑だとか罵られたりはしなかったから、俺は自分の気が済むまでここにいることにした。
さらりと、海月の黒髪が肩から垂れ下がる。
指先だけでも触ったら、さすがに怒られてしまうだろうか。