「具合、悪いの?」
そっと近づくと、海月は目を隠すように右手を顔の上に置いた。
「……出張、中……」
「え?」
「ドアの前の札」
海月の声は聞き取れないぐらい小さくて、おまけに主語がないから一瞬なにを言ってるのか分からなかったけど、おそらく保健室のドアに出張中の札がかけられていなかったか、と俺に聞いてるんだと思う。
「気づかなかったけどかかってた?」
「……うん」
「そうなんだ。つか、勝手に札なんてかけていいの?」
「……違う。さっき先生が出張にいって、それで札をかけておくから、誰も入ってこないって……」
ああ、だからベッドの周りのカーテンを閉めてなかったってことか。
一応会話は成立しているけど、海月の様子は明らかにおかしかった。だってこんなにも普通に喋ってくれることなんてないし、そもそも喋り方がうわ言みたい。
「なんか薬でも飲んでる?」
なんとなく、意識が朦朧としているように感じた。
「別に、あんたに関係ない」
なんだよ、それ。こういう返事だけはっきりと言うなっての。
「風邪?熱は?」
だけど俺はめげることはなく、海月のおでこに触った。あんまり人の熱を測ったことなんてないけど、多分熱はない。というか、逆に冷たすぎるぐらい。
「お前、体温低すぎない?」
たしか低いのもあんまりよくないって、なんかのテレビでやってた気がする。
偏った食事とか寝不足だったりすると体温が低くなりがちで、それによって免疫力が下がったり、病気になるリスクが増えるとかなんとかって。