私は私がいなくなったあとの世界を、知ることはできないけれど、佐原ならきっと見せてくれる。
楽しいことも嬉しいことも、満ち溢れた未来を、きみはまっすぐに歩いてくれるだろう。
もう声が出ない。けれど、握っている手から私の気持ちは伝わっているはず。
ねえ、佐原。
ゆっくり、ゆっくりと大人になっていってね。
これからたくさんの人に出逢って、たくさんの人に囲まれて、幸せに過ごしてほしい。
だから、早く会いに来たりしたらダメだよ。
いつかきみの隣で、きみの生きた時間の話をたくさん聞かせてほしい。その日が訪れるまで、長く長く待つから、いっぱい笑って、佐原らしく生きてね。
それが、私の最後の願い。
「海月、ありがとう。またな」
佐原の優しい涙が、私の頬に落ちた瞬間――。
私の16年間の命の炎は、後悔をひとつも残すことなく、静かに消えた。