「真実なんて分からないし、普通に元気に生きてて今頃新しい家族ができて幸せに暮らしてる可能性もあるけど、万が一、億が一そうだったんじゃないかって考えた私はきっと、母に愛されたかったんだと思う」
あの私が生まれた時の写真のように優しく微笑んでほしかった。私が覚えていない時ではなく、しっかりと記憶できる時に、もっともっと愛を感じたかった。
「……会いたい?」
佐原が、優しく聞いてきた。
会いたいか、会いたくないかと聞かれたら、私は会いたい。会って、確かめたいことがたくさんある。
でも、それはもう叶わない。
だけど、胸に苦しさはない。
「私が大切にしたいのは今だから。でも悲しかったことも苦しかったことも許せなかったことも、私は忘れない。忘れずに、最後まで笑っていたい」
だからもう、生まれてこなければよかった、なんて思わない。
堂々と、生まれてきてよかったって、やっと思える。
佐原が私の手をぎゅっとしたところで、海の向こうの水平線からゆっくりと朝日が昇ってきた。
暗闇を掻き分けるように、鮮明になっていく世界の色。
薄いピンク色から徐々に濃さを変えて、目映いオレンジ色の日の光が私たちを眩しいくらいに照らした。
「……綺麗……」
そんな言葉じゃ足りないくらい、美しい朝日。
「1日の始まりがもう嫌いなんて言わない?」
「言わない。だって、こんなに暖かいもん」
私の頬に伝う涙を、佐原はそっと拭ってくれた。