「メニューに加えるそうですよ」

「え?」

「満月蕎麦」


月見蕎麦は前からあるけれど、これは従業員たちのまかないでしか作られてないものだった。


「呼び方はもちろん〝みづきそば〟にするそうです。きっと人気メニューになりますよ」

三鶴くんがにこりと笑った。



そうやって私がいたということが残っていく。

誰とも関わりたくないとひとりでいることを今でも選んでいたら、こんなに嬉しい気持ちも知らないままだった。


「将之さんと清子さんにありがとうって伝えてくれる?」

「もちろんです」


これからも蕎麦屋はあの場所にあり続ける。たくさんの人たちに美味しい蕎麦を出して、笑顔が溢れるお店のままであってほしいと思う。



「三鶴くんも色々とありがとう。一緒に働けてよかった」

「いえ、こちらこそ」


私と三鶴くんは友情にも似た握手を交わして、笑顔で別れた。