「これを届けにきました」

「……なに?」


三鶴くんの手には一枚の色紙。そこにはお疲れさまという文字と一緒にたくさんの寄せ書きがされていた。


「バイトのみんなからです。あ、常連だったお客さんのもあります」


【うちで働いてくれてありがとう】
【海月ちゃんがいてくれたおかげですごく助かりました】
【お皿が綺麗なおかげで美味しく食事ができました】
【いつでも戻ってきてね】
【今度はお客さんとして来てください】


確認するように受け取ると、将之さんに清子さん、常連の人にあまり話したことがなかったバイトの先輩まで、たくさんのメッセージを書いてくれていた。



「みんな送別会ができなくて残念がってましたよ」


年末まで働く予定だったバイトは、結局また入院することになってしまったので最後までやり通すことはできなかった。


本当は這ってでも挨拶に行きたかったけれど、最近は足の神経にも症状が出てきてしまい、正常に歩くことが難しくなってしまった。


「みんなには風邪が長引いてるってことにしてあります。本当のことを言わないままでよかったんですか?」

「うん」


私は考えてバイト先の人たちには病気のことを打ち明けない選択をした。


黙っていることに心苦しさはあるけれど、あのお蕎麦屋は私にとって唯一、孤独感を一度も感じたことがない場所で。

いつも暖かくて優しい人たちばかりが集まるところだったから、悲しい気持ちを置いて去りたくなかった。